トマス・グルベ『ベルリン・フィル 最高のハーモニーを求めて』(2008)

Trip to Asia 出演:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、サー・サイモン・ラトル ドイツ/ドルビーデジタル/108分
「300時間を超える撮影。オーケストラのすべてをとらえたドキュメンタリー」
2005年のコンサートツアーに同行したカメラクルーは、北京、ソウル、上海、香港、台北、そして東京と文化や思想が異なる6つの都市を駆け抜けた。カメラは移動の飛行機、リハーサル、メンバーのホテルの部屋、自由時間、楽屋と縦横無尽に動きまわる。本作は、この偉大なオーケストラの内面に入り込むことに成功し、ラトルとオーケストラのメンバーが音楽をつうりあげる瞬間をとらえ、彼らの奏でる雄音楽も圧倒的な美しさと迫力で充分に聴かせてくれる。名門オーケストラ“ベルリン・フィル”を初めて身近に感じられるドキュメンタリー映画の誕生だ。

卓越性を追求する人間にとって、苦悩とか不安とかの人間らしさは、速やかに処理すべきノイズでしかない。非人間的なマシーンに徹するタフネスを備えてはじめて、絶えざる評価と競争を前提とする、技巧の飽くなき追求に没頭できる。才能はあって当たり前、本当に必要なのは(自己をマシーンとして限定する)意志と忍耐なのだ。
この映画からは、ヘッジファンドのトレーダーみたいな、異様なテンションばかりが伝わってくる。実際、音楽がもたらす快楽についてラトルが語るのは、「僕は一生ジャンキーでありたい」という言葉だ(“Trip”to Asia)。動物的快楽を追求する、非情なプラグマティズムに凄みを感じずにいられない。これがベルリン・フィルというオケなのだろう*1
少しでも関心のある人なら見て損はない。ピッコロ担当の美人ネエちゃんが映るが、ラストのオチも凄かった。

*1:自分のことを変人だと分析する団員が多い。学校に適応できなかった、という話が良く出てくる。