森崎東『喜劇・女は度胸』(1969)

主演:花沢徳衛 (桃山泰三)、清川虹子 (桃山ツネ)、渥美清(桃山勉吉)、河原崎建三(桃山学) 、倍賞美津子(白川愛子) 、沖山秀子、有島一郎春川ますみ、中川加奈、大橋壮多、佐藤蛾次郎久里千春
渥美清を兄にもつ弟は工場勤めの倍賞美津子と結婚を決意する。しかし倍賞に渡したゲーテの詩集を兄が持っていることを知り、弟はとんでもない勘違いをしてしまう。父、兄、弟、女達が入り乱れるなか、母のとった行動とは…。

渥美清の笑いの反射神経が凄まじい。「寅さん」のように定型化される以前の、粗野でどうしようもないダメ庶民を演じている。
真面目な弟が「家庭とは何か?」と問いかけて、「カテイってのは所帯のことだろ?」とかなんとか、渥美がうろたえる姿が面白い。庶民文化とインテリ文化の落差がユーモアたっぷりに描かれ、「女の純潔」をめぐるブルジョワの性規範も、根本的な形で取り上げられている。主題の深みを感じる。
飛行場近くの自宅前でスラムの狭い路地を一杯に塞ぎながら展開される会話劇は、ほとんど奇跡的な出来映えだった。父と渥美と弟と渥美のフィアンセと弟の恋人、そして母。本当に凄い。便所に落ちてシミのついたゲーテの詩集もジーンとくるアイテムだったし(人間は無垢のままではいられないし、そのことは人間の尊厳とは関係がない。というかむしろ、糞まみれの泥沼のなかでこそ人間の尊厳は光り輝く)、倍賞美津子の金網越しのキスシーンもすばらしかった。傑作ですね。