木下恵介『二十四の瞳』(1954)

デジタルリマスター版、製作 桑田良太郎、原作 壺井栄、脚本 木下恵介、撮影 楠田浩之、音楽 木下忠司、出演 高峰秀子天本英世、夏川静江、笠智衆浦辺粂子清川虹子浪花千栄子田村高廣月丘夢路
小豆島の分教場に赴任した大石先生と12人の生徒達。戦争へと傾斜する時代のなかで、それぞれが困難な人生を生きていく。

昭和三年、満開の桜の木の下で、大石先生と一年生たちは汽車ぽっぽを歌って遊んでいる。戦争が激しくなると、教え子たちはそれぞれに苦労を重ね、人生を歩んでいく。
夫と子供を失った大石先生は、戦後、ふたたび分教場に赴任し、教え子たちの墓参りをする。菜の花が黄色に咲き乱れる春の季節、下り坂を迎えた人生と、死んでいった者たちの記憶が、萌え出づる生命感と対照されて、しみじみと心に沁み込んでくる。
船のエンジン音が穏やかに響く、のどかな瀬戸内海の風景がすばらしい。戦争や貧乏で生活は厳しく、人間たちは死んでいくが、昨日と今日と明日の間に本質的な違いは存在せず、労苦を引き受けつつも人生は営まれていくのである(そのことが静かな瀬戸内海の風景描写に示されている)。それは戦死者への鎮魂の思いであり、広い意味で、日本人の宗教意識(死生観)の発露でもあるだろう。
梅雨の頃、新任の大石先生は分教場の不満を口にする。同じ梅雨の頃、中年を過ぎた大石先生は、雨の中をただ黙々と教え子に送られた自転車を漕いで分教場へと向かう。永遠不滅の名作です。