黒沢清『トウキョウソナタ』(2008)

日本・オランダ・香港映画 1時間59分 出演 香川照之小泉今日子小柳友
リストラされた父、米軍に入隊志願した長男、親に内緒でピアノを習う次男、家族のまとめ役母にも異変が……。それぞれ秘密をかかえた家族を追った、リアルでシニカルそして希望を予感させる、現代人必見のメッセージを含んだ、黒澤清監督、渾身の秀作!!(GH)

二度目の鑑賞だが、井川遥のお姉さんぶりが素敵だなぁと思った。変態エピソードを思い出したので、ここでひとつ披露しておくと、井川遥NHKフランス語会話に出演していた時、円唇母音を発音するため彼女が唇をすぼめるのを、毎週私は楽しみにしていたことがある。井川は極端に物覚えが悪くて、それもなかなか味わい深かった。
トウキョウソナタ』については、「合衆国に向けるべき視線を思いがけぬやり方で鍛えてくれる」という、蓮實の小文が発表されている(『UP』)。「一晩だけ、その存在を、家族によってひたすら無視されるサラリーマン一家の住居を作品に導入すること。それが『トウキョウソナタ』の黒沢清のおよそ誰にもまねの出来ない作家的な斬新さにほかならない」、「いきなり空家になってしまった二階建ての脇を、井の頭線の最終電車が轟音を響かせてかけぬける真夜中の光景を想像すれば、これはほとんど怪奇映画だと誰もが口にするだろう」(3)。役所広司が作品内に闖入する前後から、香川、小泉、弟息子の三人は同時に駆け出すのだが、ここからの展開は息もつかせない見事さだと改めて感じた。
さて、蓮實の小文は真意を掴みがたい文章であるが、ぼくがレベルをどーんと下げて整理すると(田原総一郎(C))、二度現れる「不自然な自然さ」という言葉がキーワードになっていると思われる。アメリカ合衆国は日本にとってもはや理想我とはなりえず、「自然/不自然」の二分法を断念することが、今後ありうる、辛うじての希望なのである。そのことをハスミンはくだくだしく説明しないが、私は前に記したことがあるので、気になるようだったら見返してもらっても良いかもしれない。