テリー・ジョージ『帰らない日々』(2007)

Reservation Road 1時間42分 出演、ホアキン・フェニックスマーク・ラファロジェニファー・コネリー http://www.kaeranaihibi.jp/
ひき逃げ事件で息子を失った大学教授とその妻。警察の捜査に不信を抱き、弁護士を雇い、独自の捜査を始めるのだが…。「ホテル・ルワンダ」のテリー・ジョージ監督が描くヒューマン・ドラマ。

コネチカット州の郊外に住む大学教授の父親は、ひき逃げ事件で息子を失い、独力で犯人を捕らえようとする。「governmentは信頼に値しない、裁判所にはlawはあってもjusticeは存在しない」という考え方は、神と個人の関係を倫理の基礎とするアメリカ社会ならではのものだ。
犯人側の良心の呵責も生々しく描写されている。心理的圧迫感で意識が遠のいていくような映像表現も面白い。狂気に駆られた父親が犯人と対面するシーンは、思わず息を呑むような迫力だった。
(息子への)愛が(犯人への)憎しみへと転化していくなかで、憎しみの対象である他者をいかに赦しうるのか。愛が自由意志によって発揮される以上、堕落の可能性(悪、憎しみ)は前提とされねばならず、自由意志を否定する支配・被支配関係(裁きの関係)は拒絶されるのでなくてはならない。悪や憎しみを前にしてはじめて、自由意志に基づく愛は、十全に実現されうる。人間は過ちを犯す罪深い存在であり、そうであるがゆえに崇高でもありうるのだとしたら、「裁き」には人間的な留保(reservation)が付されるのでなくてはならない(人間は人間を裁けない)。