クリント・イーストウッド『チェンジリング』(2008)

Changeling 製作総指揮 ティム・ムーア、ジム・ウィテカー 製作 クリント・イーストウッドブライアン・グレイザーロン・ハワードロバート・ロレンツ 脚本 J・マイケル・ストラジンスキー 出演者 アンジェリーナ・ジョリージョン・マルコヴィッチ(グスタヴ・ブリーグレブ牧師)、ジェフリー・ドノヴァン(J・J・ジョーンズ警部)、ジェイソン・バトラー・ハーナー(ゴードン・ノースコット)、エイミー・ライアン(キャロル・デクスター) 撮影 トム・スターン 編集 ジョエル・コックス、ゲイリー・ローチ
1928年のロサンゼルス。電話会社に勤務するシングルマザーのクリスティンは、失踪した息子ウォルターを捜索するため、警察に捜査を依頼する。しかし警察が見つけ出した子供はウォルターとは別人だった。クリスティンは次第に陰謀の渦へと巻き込まれていく。

〈ネタバレが嫌な人は注意。たぶん問題ないけど。〉
チェンジリングは「取り替え子」という意味で、子供が拉致されたアンジェリーナ・ジョリーのもとに全然別の子どもがやってくる。家の中までズカズカと入ってきて、普通にモノを食いはじめたり、風呂に入ったりするのだが、さすがのアンジェリーナ・ジョリーもブチ切れて、“Who are you?Who are you?”と二度叫んでみるのだが、子どもは恐ろしいくらいに平然としたままで、「おまえ誰やねん?どこから来た子どもやねん?」と私も心の中で突っ込まざるを得なかった。あまりに不気味すぎる。身長、縮んでるし。
とはいえ、冷静に考えれば荒唐無稽であるにもかかわらず、「ケーサツは無茶苦茶やりよるわ」と納得できるように作ってあるのは、さすがだった。組織が個人を踏みにじっていくやり方、精神病院でのめちゃくちゃな人権無視には、正直背筋が凍る思いがした。
不条理の只中にあって歯を食いしばるのが人間だ!というクリント・イーストウッドの気合いが伝わる傑作であるが、善玉ではあるがほとんど狂信的な感じもする長老派教会の牧師、人を苦しめることではじめて実存が満たされる殺人鬼(死刑前日になってなお、彼はアンジェリーナ・ジョリーを死ぬまで苦しめる言動を選ぶのである)など、一筋縄ではいかない逆説的な魅力のある登場人物がすばらしかった。白色の密度が濃い端正な画調、アンジェリーナ・ジョリーの古風なメイク、昔の町並みなども、非常に見応えがあった。