魅力的な「声」

私は自分の声を何とかして改善したいと、この数年間、地道な研究を続けてきた。そもそも声に最初に問題を感じたのは教育実習の時で、私の場合、声が小さいというか、通らないのである。実習の前には、大きな声を出す練習としてカラオケボックスに行くなどの努力もしたのだが、やはり「どなる」声は出来ても、「通る」発声というのは無理だった。で、鴻上尚史『発声と身体のレッスン』を読むと、私が試行錯誤のすえ、この一・二年の間に気づきつつあったことが、非常に説得力のあるかたちで説明されている。それは結論から言うと、「身体をリラックスさせない限り、発声はうまくはいかない」ということである。そのとおりだろう。少しでも身体がこわばっていると、声帯も緊張し、自分の感情を過不足なく伝達するための発声は難しくなる。つまり、声を技術論的に問題にする前に、自分の精神的な部分、さらに言えば人格的な問題などが、もっとも本質的な問題として存在しているのである。まあ、そこまで言ってしまうと、出来ることが何もなくなってしまうが、この本では、身体をコントロールするメソッドから説き起こされていて、さまざまな発見がある。また、今まで述べたこととは逆の話になるかもしれないが、発声の仕方によって、そこに表れる感情の有り方も変わるという考え方も面白かった。なお私の場合、声楽をやっていたパパの大声に萎縮しながら育ってきた、という幼年期のトラウマがあるのだが、「声楽家のような声」が「良い声」のイメージとされることの一面性についても指摘されており、あくまで人間の感情に即した発声という視点が貫かれていて、興味深かった。