豊田四郎『雪国』(1957)

雪国(133分・35mm・白黒)
すでに文学作品の映画化で世評の高かった豊田が、川端康成の国民的名作に挑んだ作品。スマートで洗練された雰囲気を持つ岸恵子にあえて雪深い温泉場の芸者を演じさせ、そこから新しい駒子像を誕生させた演出家の力量に瞠目させられる。
’57(東宝)(原)川端康成(脚)八住利雄(撮)安本淳(美)伊藤熹朔、園眞(音)団伊玖磨(出)池部良岸惠子八千草薫久保明森繁久彌加東大介田中春男、中村彰、浪花千榮子、多々良純、万代峯子、浦辺粂子、中田康子、東郷晴子千石規子、三好榮子、谷晃、若宮忠三郎、市原悦子

フィルムセンターで、豊田四郎監督『雪国』(1957)を見た。出演者は、池部良岸恵子八千草薫久保明加東大介森繁久弥ら。先週のことを考えて一時間前に到着したのだが、すでにたくさんのお爺さんお婆さんが詰めかけていた。ここの観客の平均年齢はもしかすると70歳を超えているかもしれない。
映画の内容について、双葉十三郎氏の解説。

 妻子ある日本画家島村(池部良)は雪国の温泉宿で芸者駒子(岸恵子)と年一度逢う瀬を重ねるが、駒子は人生に背負っているものが多過ぎて、恋は成就しない。愛の激しさ、哀しさをかみしめながら二人は別れる。二人が逢わなくなってからも、駒子は火傷で傷ついた義妹をかかえ、今日も雪の中を芸者に出る――。豊田四郎監督には『若い人』(‘37)というヒット作があるが、彼の持ち味ではないような気がする。小説「雪国」は同じ川端康成の「伊豆の踊子」ほどには映画化されていないが、豊田監督は非常にきちんとつくり、これが彼の代表作となった。(208)

☆☆☆★★★(75点程度)で、「上出来の部類」に入るという。
とはいえ、上記解説では明らかではないが、この映画の主題は「成就しない恋」というより、「はかりがたき女の心理」であるように思う。重要なモチーフとして、駒子と義妹(八千草薫)の恋をめぐる嫉妬があるし、岸恵子のあまりのブリッ子ぶりには、本当に頭がくらくらした。何回「いやン」って云っただろうか、駒子。白黒映画なんだが、岸恵子の演技だけはピンク色に見えた。了解不能な生き物としての女、が主題であるだけに、映画自体も評価不能のところがあるが、駒子のコケットリーにその都度やさしく応えてあげている池部良を見て、モテる男の真髄を知ったような気にはなった。