「タクシー運転手は眠れない」

NHK。何かの賞を受賞したということで、再放送された番組。たしかに色々と考えさせられる。
規制緩和によって、大阪のタクシー業界では運賃の値下げ競争が激化し、運転手の生活を脅かしている。競争に乗りおくれた企業では、運転手の年収は300万円台前半ほどだという。初乗り500円のワンコインタクシー会社では、勤務時間を少しでも長くできるよう、自宅にまでタクシーを持ち帰ることを認めているそうだ。(それぞれのタクシーは各運転手に100万円で買い取らせ、維持・管理を任せているという。当然、事故が起こっても会社による補償は行われない。)このようにルーズな社員管理が進んだ結果、とくに勤務時間が大幅に延びることで、タクシー運転手の労働は激化し、疲労などによる事故が増加した。規制緩和は、タクシー運転手の生活と乗客の安全とを危険にさらしているわけだ。
と、良い番組であることは否定できないのだが、こうした規制緩和がどういった議論を経てもたらされたかという、政策面での突っ込みが足りないと思う。
そもそも、タクシー業界というのは、中高年の失業者にとって重要な再雇用先となってきた(らしい)。再雇用が比較的可能だということは、労働経験が問われにくい業界だということである。つまり、労働のあり方が単純だということである。ところで、規制緩和というのは、競争原理を働かせて、産業の合理化を図るものであろう。合理化というのは、労働プロセスの単純化によるコスト削減を意味しているからだ――っておい、タクシー業界、はじめから労働形態が単純やんけ。なのに、何で規制緩和やねん。
とまあ、このような素朴な疑問が湧いてくるわけだが、それについては事前にどのような議論があったのだろうか。もちろん、まるで議論されなかった可能性もあるわけだが……。いずれにせよ、アネハウス(耐震偽造マンションのこと)の件でも明らかになったように、市場原理一本槍の単細胞な政策がまかりとおるのは残念なことだ。アダム・スミスだって、同情心が大切だって言ってるぢゃないか。