『腹腹時計と〈狼〉』(1975)

とうとう読んじゃいました。三菱重工爆破事件などで知られる「東アジア反日ブソウ戦線」は、「狼」「大地の牙」「さそり」から構成された左翼ラディカリスト集団である。本書では、彼らをめぐる報道のあり方への疑問、事件が新右翼の急進主義者にとって持つことになったインパクト等が論じられている。――などと書くと、コーアンのチェックが入りかねないが、私はノンポリです、危険人物ではありません。
とにかくこのグループは「腹腹時計」という文書を右翼や左翼に配り、これは当時の「ゲリラ兵士」によく読まれることになったという。しかし面白いのは、新左翼が彼らに批判的で、むしろ民族主義運動を展開する右翼活動家が、それを好意的に捉えていたことである。たとえば、「日帝本国における労働者の『闘い』=賃上げ、待遇改善要求などは、植民地人民からの更なる収奪、犠牲を要求し、日帝を強化補足する反革命的労働運動である。/海外技術協力とか称されて出向く『経済的、技術的、文化的』派遣員も、妓生を買いに韓国へ『旅行』する韓国客も、すべて第一級の日帝侵略者である。/日帝本国の労働者、市民は植民地人民と日常不断に敵対する帝国主義者、侵略者である」といった「腹腹時計」の記述は、労働者への批判を含むものであり、新左翼には受け容れがたいものだった(76)。
しかし鈴木は、「日本という国がもはや国家の形態すら喪失し、企業的になってしまい、逆に企業の方が国家に代わって国家的となり、東南アジアを初めとし全世界に進出していっている事実」、「またそれ故、国家目標をなくし、世界観をなくした国家などもはや、爆破の対象ですらなくなってしまったという事実」を指摘し、彼らに好意的な見方をとる。
鈴木は、「狼」グループのアジアに対する原罪観が、左翼イデオロギーの真面目な受容(=反日教育の成果)によってもたらされたとしている。しかし、このような真面目な心情は、それが昂進することによって、右翼的なるものをも含み込むことになる。まずは、「腹腹時計」の主張から。

日帝は、36年間に及ぶ朝鮮の侵略、植民地支配を始めとして、台湾、中国大陸、東南アジア等も侵略、支配し、『国内』植民地として、アイヌ・モシリ、沖縄を同化、吸収してきた。われわれはその日本帝国主義者の子孫であり、敗戦後開始された日帝新植民地主義侵略、支配を、許容黙認し旧日本帝国主義者の官僚群、資本家共を再び生き返らせた帝国主義本国人である。」

これに対して、鈴木。

彼らは日共や、新左翼と違い、一切、責任転嫁をしようとしない。全てを自分の問題とし、自分の罪として認識する。何か傷ましい感じさえする。/かつて、玄洋社、天佑侠の右翼浪人達が大陸に渡って行き、そうした現地の人民への心優しい同情からではなかったのか、とふと思う。/時の政府に逆らってまでアジアの革命家たちをかくまい、大陸に雄飛し、そこの現地の人間として死んでいった。<日帝>などという枕詞をとってみれば<狼>も、右翼の大陸浪人も同じ心情的基盤に立っているのではあるまいか。(103)

テロリストにもフェアに彼らの理を認めようとする鈴木の原理主義的思考ぶりが、けっこう怖い。