『「ニート」って言うな』

光文社新書の新刊。昨日、本田先生の執筆部分を中心に読んだ。
本田先生によれば、ニートは言われているほど増えているわけではなく(もちろん、増えてはいるのだが)、また働く気のない人ばかりというわけではない。しかし「ニート」問題が煽られることによって、必ずしも正しくないイメージが流布することになり、結果として、本来論じられるべき雇用者側の構造的問題が見過ごされることになるという。
この問題意識は適切であり、貴重である(あと、若い女性の正社員化・離職率の低下が、雇用状況悪化の原因となっているという議論には、個人的に盲点を突かれる思いがした)。しかし、本田先生が提起している「教育の職業的意義」の見直し、つまり職業教育の復権には、いくつかの疑問符をつけざるをえない。
おおざっぱにいえば、職業教育の導入が企業にとっても学生にとっても合理性があるという議論は、余りにおおざっぱすぎるということだ。たしかに学生にとっては、職業と教育の回路が近づき、社会が見えやすくなる点で、利点があるかもしれない。しかし企業にとっては、使い道を限定されている人材よりも、多様な業務に柔軟に対応できる人材の方が雇いやすいのではないか。また、職業教育を導入することによって、それが新たな階層再生産機能を担ってしまう危険性も十分に想定できる。これらの問題は、幾つかの条件をクリアすれば乗り越えられるかもしれないが、本書ではそうした議論が詰められていないので、説得力に欠けている。
なかでも一番の問題は、職業教育を普通教育よりも一段低く見てしまう社会意識をどうするかだ。この問題を回避して安直な制度設計を提言するのは、階層再生産を呼び込んでしまう危険が大きい。