凝縮された素朴さ

深夜、NHKパウル・クレーの番組をやっていて、何の気なしに見ていたところ、非常に感動してしまった。1937年、ドイツでは頽廃美術展というのをやっていて、そこには前衛絵画が集められ、表現主義エミール・ノルデ、エルンスト・キルヒナー、カンディンスキー、クレーなどの絵が槍玉にあげられていたのだという。そういうナチス政権下の政治状況のなかにあって、クレーらは、不遇な芸術生活に甘んじなければならなかった。「ティンパニを叩く男」の絵というのがあり、そこでは、鍵十字の形に身体を捻じ曲げたティンパニ奏者が、諧謔と、血に染められた悲痛を身に帯びて、描かれている。このような背景事情を知ってはじめて、抽象絵画の意味が真に迫ってわかるのだと感じる。『西洋音楽史』を読んだり、『カリガリ博士』を見たりして、最近、表現主義について気になっていた。これを機会に、ぐっと理解を深めることができた。クレーは、子どもの線質を再現した自分の絵を、たんなる素朴として描いたのではなく、「凝縮された素朴さ」を目ざしたのだといっていたらしい。そこに「凝縮され」ているものが何であるのかを、突きつめて考えていくことが必要なのだと思った。