『戸田家の兄妹』

1941年、小津安二郎監督。双葉十三郎『日本映画 ぼくの300本』より。

この映画の四年前に観たアメリカ映画『明日は来らず』(監督レオ・マッケリー、‘37)は生活費の尽きた老夫婦が立派に独立している息子や娘を訪ねてまわるが厄介者扱いにされるお話だった。もっと古くサイレント時代に観た『オーヴァー・ゼ・ヒル』(監督ハリー・ミラード、米=‘20)は出稼ぎのため老母を兄に預けた弟が仕送りを続け、やがて帰郷してみると兄は母を養老院にいれ仕送りの金を勝手に費っていたことがわかり、怒った弟は兄をたたきのめしたうえ、母やまらせようと丘を越えて養老院へひきずっていくというお話しだった。/この小津作品は、富豪の主人に死なれた母(葛城文子)と未婚の三女(高峰三枝子)と二人で、すでに一家をなしている長男(斎藤達雄)や未亡人の長女(吉川満子)や次女(坪内美子)を訪ねてまわるが、どこでも邪魔者扱いにされる。そこへ次男(佐分利信)が天津から帰って来て事情を知り大いに怒り、自分が引き取って天津へ連れていくことにする、というお話なので、大筋だけからすると、なんだかヘンな気分にさせられたし、天津が絡んでくるのも御時世だなァとくすぐったかった。が、さすがは小津監督、当主がまだ生きていてみんながなごやかに集まるパーティーの序盤から、アメリカ映画など全く感じさせないみごとな日本的な風俗描写で、小津作品には珍しいメロドラマ的要素もこの監督らしいやわらかな落ち着いたタッチで捌き、完成度の高い一篇に仕上げてあるのに感心させられた。

まったくこの通り。
とにかく映画を見てれば、間違いない。