溝口健二『赤線地帶』(1956)

傑作。

(85分・35mm・白黒)溝口健二の遺作。題材としては『夜の女たち』に類するが、当時国会で討議中だった「売春防止法案」を視野に、溝口の弟子筋に当たる脚本家・成沢昌茂がシナリオに仕上げた。赤線廃止前夜の娼館にさまざまな事情で吹き寄せられてきた、バイタリティに満ちた女たちの悲喜が豪華なキャストで描かれるが、そのリズミカルな演出の先に、重々しい味わいを残す一篇である。
’56(大映東京)(脚)成沢昌茂、芝木好子(撮)宮川一夫(美)水谷浩(音)黛敏郎(出)京マチ子若尾文子三益愛子木暮実千代菅原謙二、川上庸子、進藤英太郎、見明凡太朗、田中春男沢村貞子加東大介、町田博子、浦辺粂子

昭和31年の吉原の情景・風俗が興味深い。こんなところだったんだなぁ、と普通に感心した。
病気の夫と子どもを背負った女、故郷で下駄屋との結婚を夢見る(ぶさいくな)女、頼りにしていた息子から結局見放される女、神戸商人の令嬢でありながら父親との葛藤をかかえる女(京マチ子)、父親の疑獄事件に運命を翻弄され金だけにすがって生きている女(若尾文子)など、吉原で生きる女性のそれぞれの苦衷が余すところなく伝わってくる。
若尾文子が美しく、また、京マチ子の捨て鉢を通り越した楽天性がすばらしく印象に残った。溝口の時代物ではない傑作という意味で、戦前の傑作作品とのつながりを見出すことができた。