マキノ雅弘『やくざ囃子』(1954)

シネマヴェーラ

公開:1954年 監督:マキノ雅弘
主演:鶴田浩二岡田茉莉子河津清三郎花柳小菊田崎潤田中春男
旅鳥しぐれの彌太郎は、船で酔った娘・お篠を介抱する。瞼に焼きついて離れない、足を引きずるお篠の面影。やがて惚れあう二人だが、所詮はしがねえやくざの彌太郎。お篠の兄・筧治三郎も彌太郎を気に入るが…。妹を思う兄をマキノ作品でお馴染みの河津清三郎が熱演。当時、マキノは本作品と『次郎長三国志 荒神山』を同時に撮影していた。

息苦しい船中シーンから始まる。その息苦しさが甘くせつない恋の予感に重なっていくのが素晴らしい。山根貞男さんも指摘していたように、船を下りた鶴田のしゃがみ姿も見事。
「好きよ、好き、大好き、惚れてるわ、ぞっこん惚れてる」の甘い会話は、岡田茉莉子さんの証言によれば、マキノ監督の速成脚本。これがすばらしいのは、武士の娘とやくざ者との間で会話が自然に成り立つように整えられた人物設定の秀逸さゆえだ。柱、すだれ越しの会話、かんざし、笠の小道具など、くっ付くようでいて離れるのかもしれない、これぞ恋の醍醐味!という粋な魅力を堪能できます。
鶴田浩二のかる〜い殺陣は必見かも。賭場に乗り込んで、歌を唄いながら人を斬りまくります。