黒沢清『CURE/キュア』(1997)

新文芸座、トリ6本目。90年代の精神を活写する傑作。

(1997/日)製作 加藤博之 監督 黒沢清 脚本 黒沢清 撮影 喜久村徳章 美術 丸尾知行 音楽 ゲイリー芦屋
出演 役所広司 / うじきつよし / 中川安奈 / 萩原聖人 / 洞口依子 / 螢雪次朗 / 大杉漣 / 諏訪太朗

90年代バブル不況にあって人々の社会的地位が不安定化するなか、阪神淡路大震災オウム真理教が起こり、実存的水準で「社会の内側に生きることの非自明性」が露呈することになった。そのトラウマが深く刻印されている傑作作品。
「おれは自分が誰だか分からない」「あんたは誰なんだ」と執拗に質問する萩原聖人。「私からすればあなたの方が変に見えますよ」と役所広治に告げる精神科医。脱社会的感受性において役所と萩原は共通感覚を持つが、そのことに対する役所の苛立ちの中に、あるいは存在するのかもしれない新たな倫理の方向性が仄めかされている。
自己の闇を自覚し、否定性を否定性として肯定する態度こそが、逆説的なかたちで救済をもたらす。これは『ドッペルゲンガー』と共通するモチーフだ。