井筒和幸『突然炎のごとく』(1994)

公開:1994年 監督:井筒和幸
主演:坂上香織、水木茂光、山本太郎野田善子
地方都市に住む少女かおりは、退屈な毎日を持て余しながら、「ハリウッドにはセックスしかなくてね」というレイモンド・チャンドラーの一節と大差ない自分の日常に、飽和感と飢餓感を同時に覚えている。彼女のさりげない日常の、微妙で、男性には不可解な心の動きが、モノクロームの映像によって紡がれた一本。

非常に地味だがそれなりに見所のある作品。車の走る音や工場から漏れる騒音、犬の鳴き声や飛行機のエンジン音など、日常に充満するノイズが背景を満たしているのは、登場する人間たちにとって日常が空虚でありながらも鬱陶しい存在感を伴って迫ってくるものだからだ。主人公らはどこでも濃厚な接吻を繰り返している。魚屋のワゴン車でカーセックスする山本太郎がガラス窓を蹴破ったシーンは可笑しいが、そこに外れかけたビニールを貼り付けて車を走らせるグズグズ感はなかなか良かった。