「うつ」

論座』を買おうと小さな本屋に入ったら、『文藝春秋』より右の論壇誌(『正論』とか『諸君』)しか扱わない職人肌な本屋だったので(安岡正篤の本とかにポップが立っている)、仕方なく渋谷陽一責任編集・季刊『SIGHT リベラルに世界を読む』を買ってきた。特集が「誰にも聞けない、鬱のリアル」で、うつのことが大変よく分かってかえって良かった。電気療法がいちばんセロトニンが出るらしいが、薬物療法もけっこう効くのだという。でも、いくら「うつは心の風邪、あるいは肺炎」だといっても、「風邪や肺炎を発症しやすい体質改善」を目的とするなら、その人の世界観へのタッチは避けられないところではないだろうか。その限りでおのずと薬物投与による対処療法にも限界が出てくるのではないだろうか、と思う。
その点、医者はまだしも、認知療法をすすめるカウンセラーなどは若干あやしい存在であって、かれらは「対処療法的な認知の組換え」までは出来ても、「患者の世界観そのものにタッチする」までの力量は持っていない(だいたいそれはタブーだし、普通の人間にも難しいことであるうえに、カウンセラーなどになろうとする人間にとってはさらに難しいことであるはずだ)。じゃあ一体なにをやっているの?というと、「気休め的存在」というわけだが、それはそれで確かに一定の存在意義を持つものの、しかし「根本的な体質改善には貢献できない」という事実は残された(隠された)ままではないだろうか。現在はそのことから目を背けられているのではないか、という疑念がある。
ところでこの雑誌には他にもイラク情勢や、吉本隆明北野武らへの編集長インタビューがあって、相当読み応えがある。凄い勢いで読み進めてしまった。…のは、他にやるべき仕事があるから(逃避)。