成瀬巳喜男『コタンの口笛』(1959)

さすが成瀬監督。素晴らしい。

(126分・35mm・カラー)『鰯雲』に続く玉井=成瀬コンビの色彩シネマスコープ作品で、北海道のコタン(アイヌ村落)で、中学校での陰湿な差別にもめげず健気に暮らす姉弟を描く。北海道の秋の風景を収めようとしたが、紅葉が早いためスタッフは木の葉に絵の具を塗る努力もしたという。
’59(東宝)(撮)玉井正夫(監)成瀬巳喜男(原)石森延男(脚)橋本忍(美)中古智(音)伊福部昭(出)久保賢、幸田良子、森雅之宝田明久保明水野久美志村喬山茶花究、土屋嘉男

いつものように細々した人間関係ではなく、川や大地といった北海道の自然が描かれている。その意味で異色作とも言えるかもしれないが、それでもこの監督にしか表現できないテーマが扱われている。「差別」という微妙で複雑なテーマをこれだけ過不足なく描き切れるのは、成瀬監督ならではの透徹した人間観察力があってのことだ(もちろん橋本忍の力量も貢献しているのだろう)。
森雅之と子供たちがすばらしい好演を見せている。彼らのひたむきさに胸がつまる。これぞ映画だと思う。