キム・ギドク『弓』(2005)

seiwa2007-04-19

ギンレイホール。相変わらず観客の質が悪い。

主演:チョン・ソンファン、ハン・ヨルム、ソ・ジソク。90分。
海に浮かぶ釣り舟。10年前、どこからか連れてきた少女を、老人は船の上で慈しみ、大切に育ててきた。少女が17歳になったら結婚するのだ。ところが結婚の日を間近に控えたある日、船にやって来た青年に少女が恋をしてしまう……。青年と出奔しようとする少女に心砕かれ、死のうとする老人のその方法の凄まじさ!この驚きから、一気に映画は自由奔放なる天上の愛へ上昇する!

サマリア』『春夏秋冬そして春』のキム・ギドク監督。老人が少女を船の上で育て、17歳の誕生日に結婚しようとする話。
テーマは純粋な愛。超能力セックスが行われる。人間に内在している「動物性」と「超越性」の二重性は、性愛行為においてアンビバレントなままに統一される。ノモス(=社会)を超越したいと願えども、もっとも卑俗な性的欲望から逃れることはできない。だが性愛における獣的行為においてこそ、ピュシス(=自然)としての存在の神秘に逆説的に到達しうる。獣性が神性に通じるという逆説。それは、ロープで自殺を図ってでも自らの魂の王国(洋上の船)を守ろうとするその意思が、結局は死の苦しみゆえに頓挫し、しかし別の意図せざるかたちで、最終的には実現したことに象徴されている(性愛を完遂する弓)。動物であらざるをえない人間、意思の力では神性には到達できない存在が、そのままで神を体験しうるという奇跡が、ここでは描かれている。
他の観客が上記のテーマ性を理解したかどうかは知らないが、個人的にはさらに抽象的でも良いと思った。タルコフスキーまでいくと難しすぎるけど。ただ超能力セックスはある意味絶句の凄絶映像。一見の価値あり。