『虚妄の成果主義』

105円だったので、読んでみた。第3章の記述が若干かったるいものの、全体としては面白い。成果主義がダメな論拠が徹底的に指摘されている。魅力ある仕事内容への内発的動機づけを引き出し、原則的に生活保障給として賃金を捉える日本型年功制はあらゆる面で優れたシステムだが、「一見したところの分かりやすさ」が成果主義ほどにはないところだけが、唯一の弱点だといえるかもしれない。細かいところでは、マズロー理論の誤りについて興味が引かれた。
この本の見方は、新自由主義の進行するなか国家が管理的側面(アカウンタビリティー)を強めていることの、実際面での非効率性を分析する場合にも応用できるかもしれない。なお動機づけが仕事の生産効率を上げるという考え方は、知識や技術の人材投資の面のみを強調する、人的資本論の盲点を突いているといえるかもしれない。知識が生産性をもたらす面ももちろん存在するが、問題状況のなかでプラグマティックな解決を導く学習する組織へと企業環境が整備されていることも、人的資本論とは異なる、生産性向上の重要な方途なのではないか。「学習」の動態的側面と静態的側面とを共に評価する視点が重要である。

虚妄の成果主義

虚妄の成果主義