黒木和雄『泪橋』(1983)

(118分・35mm・カラー)東京・大森の近くの川にかかる泪橋。その界隈に暮らす人々の悲哀を淡々と綴った村松友視の中篇小説を、志願した村松本人と状況劇場唐十郎がシナリオ化、当時話題になった「イエスの方舟」事件も織り交ぜられて幻想色の濃い作品となった。社会からの疎外感を背負った元全共闘学生のセールスマンという役柄を渡瀬恒彦が好演している。
’83(人間プロ)(原)(脚)村松友視(脚)唐十郎(撮)大津幸四郎(美)木村威夫(音)松村禎三(出)渡瀬恒彦佳村萠藤真利子原日出子殿山泰司不破万作長門裕之宮下順子風間杜夫原田芳雄

大森の立会川が舞台。澱んだ川、灰色の空。挫折を抱えた人間が、鬱屈した内面世界をあくまでも密やかに解放させる土地である。色鮮やかな小紫の化身が、幻想的イメージを伴って現れる(木村威夫の美術、唐十郎の脚本)。
佐藤忠男は「失敗作」としての本作に黒木和雄の特質を見て取るが、作品の評価はともかく、私はこの作品は大好きである。黒木和雄の自己嫌悪的性格は、時として、嫌悪の情とは裏腹のせっつかれたような攻撃性(政治的実存的投企)へと突き進むが、本作は自己内省的な主題のみに閉じた展開となっており、「世の中も、自分も、くだらないよなぁ」という感覚を持っているダメ人間には、共感できる部分が多い。
ただ佐藤忠男のいうように「自己憐憫」に終始している感はあり、その部分のバランスは、『祭りの準備』『TOMORROW』『紙屋悦子の青春』の方が優れているとはいえる。