神代辰巳『赤線玉の井 ぬけられます』(1974)

公開:1974年 監督:神代辰巳
主演:宮下順子蟹江敬三、清水国雄、前野霜一郎、河野弘、丘奈保美、織田俊彦、五条博
昭和33年の新春を迎えて、いよいよ売春防止法が施行される東京「玉の井」に働く売春婦たちの哀歓を描く。刺青をしている男にめっぽう弱いシマ子、一日に27人のお客を取ろうと大張り切りの直子、新婚早々彼では欲求が満たされないと早速お客を取り出す公子。赤線廃止を前に、彼女たちのたくましい姿が優しいまなざしで捉えられたロマンポルノの傑作。

かなりの傑作。妥協を感じさせない出来栄え。
滝田ゆうのマンガが挿入されるのだが、まさに滝田ゆうの世界を再現した感じ。『寺島町奇譚』(ちくま文庫)は少年キヨシの目線で描かれた玉の井だけれど、この映画では遊郭の女達の目線で玉の井が描かれている。小さな幸せを夢見ながらも、でもその幸せにあと一歩だけ届かない、希望とあきらめが入り混じった女たちの世界。叙情的で素晴らしい映像*1
宮下順子がとくに素晴らしかったですね!足に注射器のガラスが刺さりながら蟹江敬三とセックスする場面は、身体も気持ちも痛みを感じるシーンでした。あと、無事嫁いだはずの女が店に帰ってきてヤクザとセックスする場面も、ネオンサインのぼんやりとした色が点滅して、幻想的で物悲しい素晴らしいシーンでした。

寺島町奇譚 (ちくま文庫)

寺島町奇譚 (ちくま文庫)

ところでこの本の吉行淳之介解説によると、「空襲で焼けたあとの戦後、隅田川に近いところに「鳩の街」という赤線地帯があたらしくでき、「玉の井」は以前よりも寺島町(現・東向島)七丁目寄りに移った(あるいは拡がった―引用者注)」(641)のだそうですね。今はどうなっているのかな?

*1:かなりの長回しが多用されている。今村作品の撮影監督も務めている姫田真左久。