野村芳太郎『疑惑』(1982)

(127分・35mm・カラー)夫の保険金殺人の疑惑を一身に浴びた妻をめぐる緊迫した法廷劇。ふてぶてしい容疑者役の桃井かおりと冷徹でシャープな弁護士役の岩下志麻の役者としての個性を存分に活かし、ラストに至るまで壮絶な“女の対決”を実現した野村演出の醍醐味が味わえる。
’82(松竹=霧プロ)(監)(脚)野村芳太郎(出)仲谷昇(白河福太郎)、松村達雄(原山正雄)、丹波哲郎(岡村謙孝)、新田昌玄(原)(脚)松本清張(脚)古田求(撮)川又繡(美)森田郷平(音)芥川也寸志毛利蔵人(出)桃井かおり岩下志麻鹿賀丈史柄本明真野響子森田健作、伊藤孝雄、内藤武敏名古屋章小林稔侍、河原崎次郎、三木のり平北林谷栄山田五十鈴

桃井かおり岩下志麻の演技が、これは両者ともにベストではないかと思わされるほど素晴らしい。『張込み』は身体が重くていけなかったのだが、観ればよかったと後悔。『砂の器』と同じように、都会的な人間関係(本作では法廷の世界)のなかから、思わぬ人間関係のシコリが浮かび上がる。迫力があって素晴らしい。頭は悪くないが怒りにすぐに見境をなくす桃井かおりのふてぶてしい怪演、冷徹なまでに論理的だが奥底には人間的温かみを感じさせないでもない岩下志麻、両者の組み合わせの妙が光る傑作。鹿賀丈史のチンピラぶりも良かった。『はなれ瞽女おりん』をもう一度観たい。