西河克己『スパルタの海』(1983)

公開:1983年 監督:西河克己 主演:伊藤四朗小山明子平田昭彦、牟田佛三
多くの青春映画の秀作を世に送り出した西河克己によって描かれる「戸塚ヨットスクール」の実態。何の因果か元・てんぷくトリオ伊藤四朗が戸塚役を熱演!公開を目前にお蔵入りとなってしまった幻の教育映画がついに劇場初公開!プロデュースは東映の黄金期を築いたあの天尾完次。デジタル素材

これは観て良かった。戸塚ヨットスクールのことが、ものすごくよく分かった。伊東四朗の好演もあり、映画としての出来もなかなかのもの。
ただ観ていると、笑い飛ばしているうちにも、知らず知らずのうちに「戸塚ヨットスクール肯定論」に洗脳されていく。映画の魔力だ。世間の浅はかな常識に立ち向かう少数派のヒロイズムに酔わされていく。
しかも生徒が急に心肺停止になったり、果ては死んでしまったりもするのである。朝起きたらすぐに筋トレ。ランニング。ダレていると暴行を加えられ、海に放り投げられる。精神疾患なのに収容された生徒は「僕は死ぬ…」「寒い…」などと言いながら、突然死んでしまう。実話である。そして伊東四朗こと戸塚宏は、両親に「寿命です」と言い放つのだ(これは映画の話)。しかし、死ぬ奴は死ぬ、でもダレてる子供の生命力を取り戻すにはほかに方法はないのだ、という戸塚の考えに観客は洗脳されてしまっているので、結局、映画を非常な感動でもって鑑賞してしまうのである。
なお真魚八重子さん、モルモット吉田さん(「映画をめぐる怠惰な日常」)など、私にとってブログ上の人物が登場してトークショーも開かれた。全体的にマニアックな小ネタの応酬で、小ネタも大事だと思うが、もうちょっとゆるい一般客向けの話の聴かせ方をしてもらえればよかったのにな、と感じた。ただモルモット吉田氏は、話しかたはやはりブリリアントだなと思わされた。