『靖国史観』
靖国神社をめぐる歴史的・思想的文脈が明かされる構成のため、著者自身の積極的な主張が示されるわけではなく、該博な知識と相まって読みやすいとはいえない。だが、靖国の本質問題の指摘は必読の価値がある*1。時々はさまれるギャグも面白い。おすすめ。
「靖国問題は国内問題」と断ずる著者の論理は、説得的である。水戸学に淵源する皇国史観は、藩閥政府の体制イデオロギーとされ、中国思想の特殊な影響を濃厚に受けつつ、御霊信仰とは異なる、近代的国家祭儀施設を生みだした。1)中国の理気論を受けた「英霊」概念は適切か、2)「皇国史観」を中世政治思想の文脈において読みなおすとどうなるか、そして何よりも3)戊辰戦争に付与されたイデオロギー的歴史観は「日本」を適切に表象しうるか*2、という問題群がここでは問われなければならない。
私はけっこう佐幕派なので、いちいち頷けた。あなたは佐幕派ですか、それとも官軍派ですか?『愚管抄』と『神皇正統記』はぜひ読みたい。『近代日本の陽明学』についてはこちら。
キーワード:会沢正志斎『新論』、松平定信の大政委任論。水戸学(水戸光圀『大日本史』)。水戸光圀と契沖、本居宣長の国学。祭政一致イデオロギー、国学と水戸学。文天祥と藤田東湖、「英霊」。『詩経』と『大学』、「維新」概念の成立。幕藩体制イデオロギーと水戸学イデオロギー(薩長体制イデオロギー)。幕藩体制イデオロギーとしての、慈円『愚管抄』と北畠親房『神皇正統記』。水戸学による『神皇正統記』の読解。
- 作者: 小島毅
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/04
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