内田吐夢『飢餓海峡』(1965)

(182分・35mm・白黒)内田・鈴木コンビの集大成でもある日本映画史上の名作。「しっかりした叙事の骨格を持って、表現は叙情がいいねぇ」という内田の言葉は若き鈴木の心を大きく動かしたという。当初完成版があまりに分数が長かったため、短縮するかどうかで激しい議論となった。
’65(東映)(脚)鈴木尚之(監)内田吐夢(原)水上勉(撮)仲沢半次郎(美)森幹男(音)富田勲(出)高倉健伴淳三郎三国連太郎左幸子、三井弘次、加藤嘉沢村貞子、藤田進、風見章子、亀石征一郎、曽根秀介、安藤三男、山本麟一

サスペンス映画としては普通のストーリーだが*1、作風は異常そのもの。恐山の麓(大湊)の宿で三国連太郎左幸子が結ばれるシーンなど尋常の雰囲気ではない。此の世と異界との境界を彷徨う、宿業を背負った人間の姿。
一見ヒューマニズムを謳っているようにも思えるが、それは正しくない。「真実は人知を超える」との含意が示唆される結果*2、全くの反ヒューマニズムが映像に結実している。左幸子と再会した三国連太郎は、雷鳴とともに異界に誘われ、骨を砕くまでに人間をいとおしむ。内田吐夢の底知れぬ怖ろしさに戦慄。

*1:新文芸坐。「津軽海峡から下北半島、大湊、東京の特飲街(新宿、池袋、亀戸)、そして舞鶴までの地理的な大きさと十年という時間的な広がり。その中ですれ違うさまざまな運命の切なさが素直に伝わってくる」と双葉先生(65)。

*2:高倉健に取り調べされる三国の必死の訴えに、ニヒリズムの色が濃く漂う。