成瀬巳喜男『驟雨』(1956)

(90分・35mm・白黒)東京西部の新興住宅地を舞台に、面倒な近所づきあいの中で、生活に倦み始めた夫婦のすれ違う心情を浮かび上がらせた1956年の正月映画。脚本は岸田国士の数篇の一幕戯曲を水木洋子がまとめたもので、題名の通り、成瀬映画が好んだ雨も効果的に使われる。
’56(東宝)(原)岸田國士(脚)水木洋子(撮)玉井正夫(美)中古智(音)齊藤一郎(出)原節子佐野周二香川京子、根岸明美小林桂樹中北千枝子東郷晴子長岡輝子加東大介

香川京子はアヤちゃん役で最初の方に少しだけ出てくる。とてもかわいらしい。眉毛のカットが『杏っ子』よりも都会的。ああ、大好きだ!!
しかし原節子がメインで、こちらも勿論魅力的である。倦怠期で家計のやりくりに追われる原はやつれているが、時折見せる心のときめきが一瞬、笑顔を輝かせる。とてもキュート。
杏っ子』と併せて、川本三郎今ひとたびの戦後日本映画』(岩波現代文庫)から引用しておこう。

成瀬巳喜男が、戦後、次々に秀作を作り続けることが出来たのは、戦後社会のいたるところに、日常的に、彼の好きな貧乏が存在していたからだといっても過言ではないのだろう。成瀬巳喜男は、その意味でもっとも戦後的な映画作家だった。ただ、成瀬巳喜男は、その貧乏を決してみじめには描かなかった。社会派の監督たちのように貧乏をストレートに社会問題に結びつけることもなかった。貧乏をあくまでも個人のレベルで、気品を持って描いた。ぎらぎらした欲望、闘争心、上昇志向などほとんど無縁なこの穏やかな監督にとっては、貧乏はむしろ、隠れ里のような静かな生活を保障してくれるサンクチャリ(聖地)だったのではあるまいか。…

さすがに分かっている。

今ひとたびの戦後日本映画 (岩波現代文庫)

今ひとたびの戦後日本映画 (岩波現代文庫)

ここらへんのことがまったく分かっていないのが、片岡義男『映画の中の昭和30年代』(草思社)で、この人の「的外れ映画批評」は、「どうしてこんなになっちゃったんだろう」と思わされるほどの、おそるべき低水準である。
映画の中の昭和30年代―成瀬巳喜男が描いたあの時代と生活

映画の中の昭和30年代―成瀬巳喜男が描いたあの時代と生活