山本薩夫『人間の壁』(1959)

原作:石川達三 脚本:八木保太郎 撮影:前田実 音楽:林光 2時間25分 配給: 山本プロ 香川京子宇野重吉、高橋昌也、宇津井健、三ツ矢歌子、南原伸二、殿山泰司
石川達三『人間の壁』の映画化作品。退職勧告を受けた小学校教師(香川京子)が、組合員の夫との離婚など、様々な困難を経験しつつも、組合運動に参加していく。 香川の美しさとともに、同僚教師・宇野重吉の演技も素晴らしい。

題材は実話。昭和30年に起きた、佐賀県教委による馘首問題。県教組は1957年、反対闘争を開始する。1959年の作品。
山本薩夫はバリバリの共産党員なので、カンペキな左翼映画になっている。映画のオチも「個人の闘いには限界がある。だから組合運動だ」と「組合運動への目覚め」の形で終わっており、当時の文脈に照らして、どのくらい「左翼的偏向」があるのかが気になる。
しかし石川達三の描き方(と思われる)には、それなりの奥行きを感じないでもない。組合運動家の卑しさも描いているし、運動に冷淡な教師にもまずまずリアルな造型を施している(もちろん「良心的左翼」風のエキュスクーズと取れなくもない)。石川達三について、一度きちんと調べてみたい。
新文芸坐なので、フィルムの質は悪い。でも香川京子の女教師役はハマリ役で、かわいらしさは指折りの作品といえる。