アルフレッド・ヒッチコック『三十九夜』(1935)

39 STEPS (86分・35mm・白黒)1936年3月日本公開。寄席に立ち寄った青年紳士が銃撃事件に遭遇し、状況を把握できないまま事件に巻き込まれていく。ジョン・バカンによるスパイ小説の古典を映画化したヒッチコックの英国時代の作品で、前年公開された『暗殺者の家』とともに、ヒッチコックの名前が日本の観客に浸透するきっかけをつくった。
’35(イギリス)(監)アルフレッド・ヒッチコック(原)ジョン・バカン(脚)チャールズ・ベネット、アルマ・レヴィル(撮)バーナード・ノールズ(美)オットー・ヴァーンドルフ(音)ルイス・レヴィ(出)ロバート・ドーナット、マデリーン・キャロル、ルツィー・マンハイム、ゴッドフリー・タール

「…何もかもがロバート・ドーナットの身にふりかかる災難の兆候のように描かれ、画面は強迫観念の連続になる。こうした恐怖のムードの積み重ねは、すでにはっきりと、アメリカ映画的なスタイルをめざしていますね。」とトリュフォーが語るように(『映画術』:85)、1930年代のヨーロッパ映画と比較しても何ともいえない斬新さ(たぶんアメリカっぽさ)を感じる作品だった。
この作品の面白さの秘密は、これまたトリュフォーの指摘するとおり、「たとえありそうもない事柄でも純粋なエモーションをよび起こすことができるならばプロットの<らしさ>をそっちのけにしても撮ってしまう」というやり方にあると思われる。ヒッチコック自身もこれに同意して、「『三十九夜』でわたしの気にいっているのは、つぎからつぎへとシチュエーションのアイデアが変わっていって、その矢つぎばやの変化の連続が、うまく映画のリズムをだすことができたのではないかということだ」と述べ、ロバート・ドーナットが警察から逃れ、ニセ刑事に女とともにつかまり、二人で逃亡する展開の妙を自画自賛している。ミスター・メモリーのキャラクターも良かったし、美女と手錠で一夜を過ごすという設定もなかなか押切萌えだった。

定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー

定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー