キャロル・リード『第三の男』(1949)

THE THIRD MAN(104分・35mm・白黒)1952年9月日本公開。G・グリーンが戦後のウィーンを舞台に書き下ろしたサスペンス・スリラーをC・リード監督が映画化した英国映画の金字塔。国際色豊かな名優の共演も見所。1949年の第3回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞。戦後、東和とロンドン・フィルムとの提携により続々と紹介されたイギリス映画の秀作の一つ。
’49(イギリス)(監)キャロル・リード(原)(脚)グレアム・グリーン(撮)ロバート・クラスカー(美)ヴィンセント・コルダ、ジョン・ホークスワース、ジョゼフ・バト(音)アントン・カラス(出)ジョゼフ・コットンアリダ・ヴァリオーソン・ウェルズトレヴァー・ハワード

フィルムセンターで数年前に見て以来、二度目の鑑賞。前回は眠りこけたので、実質的には初見である。いわゆる名作であり、映画を語る上での基本作品であるが、もはやテクニックレベルでの斬新さに感動するという見方は難しく*1、これが名作であることの歴史的意味こそが問題なのだろうと思う*2
というわけで、毎度のことで芸がないが*3双葉十三郎『外国映画ぼくの500本』(文春新書)でのコメントがやはり参考になる。

『第三の男』は技巧の、フォトジェニーの、光と影の構図の、画面と音楽のバランスの、雰囲気の、映画である。巻頭から巻末まですべてのショットに多大の工夫がなされ、観客はその一ショットごとに魅力を新たにする。その撮り方は、登場した人物の主観になぞらえた鳥瞰と仰角と、客観的な鳥瞰と仰角が併用されており、そうでない場合は斜めの構図が用いられる。これに光と影の効果が加わる。この作品には夜景が多いが、そこでのハイライトと影の生かし方には驚くべきものがある。この映画的な視覚の魅力を利用した話術を調子づけているのは、カントン・カラスのチターのみによる伴奏だ。印象的なショットを二、三。夜、窓から洩れた光が戸口に隠れたハリーライム(ウェルズ)の顔を照らしだす場面、ウィーンの大観覧車を縦に見た構図、アンナ(ヴァリ)とホリー・マーチンス(コットン)がすれちがうラストシーン。ぼくはこの作品に<最も映画的な映画>のつくり方の一つの見事な標本を見るのである。(160)

「雰囲気の、映画」というのは本当にその通りだと思う。圧力で歪んだように映った螺旋階段、観覧車の密室、風船売りの老人、地下下水道に反響する声と逃亡者の影なども印象的だった(犬やオウムや猫といった動物も良かった)。戦災ウィーンの都市の魅力は、言うまでもなく、素晴らしい。

*1:年寄り連中はみんな感銘を新たにしていたようだが、ヨーロッパへの憧れの度合が世代的に違っていることも、この映画に対する態度として重要なファクターだと思われる。

*2:というような断定が、私の鈍感さの反映である可能性については、とりあえず留保する。

*3:植草甚一がこの作品について書いた文章を目にした覚えがあるが、いま手元に見つからない。