加藤泰『明治侠客伝 三代目襲名』(1965)

東映京都 91分 脚本:村尾昭鈴木則文、原案:紙屋五平、撮影:わし尾元也、美術:井川徳道、音楽:菊地俊輔、出演:鶴田浩二藤純子嵐寛寿郎藤山寛美津川雅彦、安部徹、大木実丹波哲郎山城新伍
明治の大阪を舞台に、任侠道を貫く男。撮影日数18日、主演俳優の確執等の悪条件を乗り越え作られた任侠映画の金字塔。(新文芸坐

「ロー・ポジションに据えたキャメラで、じっくりと対象を凝視し、濃密な情感を醸しだす画面は、演劇的というより、きわめて映像的な様式美を実感させて、観る者を陶酔に誘い込んだ。(藤純子鶴田浩二に、桃を差し出す場面を生涯の記憶とする人も少なくあるまい)」(長部日出雄『邦画の昭和史』(新潮新書)P.48)。
対象を凝視するなかで、背景をボカシながら焦点を定められる人物には、個人的であり秘私的でもあるような情感が宿る。鶴田と藤が女郎屋で抱き合うシーンには、他のすべてと隔絶した、純粋でラディカルな恋愛感情の高まりが見られる。親密だが不安定な空間において、藤の表情は揺れ動きながら、辛うじてスクリーンの隅に収められる*1
秘私的世界こそが絶対的であり、憂き世にはニヒリズムが投影される(ボケた対象物の背後でしばしば事態は進行する)。憂き世の敗残者だからこそ、鶴田の藤の結びつきは無比の高揚を見せるのである。斬り込みを果たした鶴田を藤が追うラストシーンで、仰角で捉えられた藤の表情があまりに感動的だった(空がぼんやりと白んでいた)。

*1:例えば、鶴田が藤に別れを告げるシーン。「いまのわいはな、わいであってわいでないねん」「あほな男や、せやけどわいにはこういう生き方しかでけへんのや」