ポール・ハギス『告発のとき』(2007)

IN THE VALLEY OF ELAH 2時間01分 出演 トミー・リー・ジョーンズシャーリーズ・セロンスーザン・サランドン http://www.kokuhatsu.jp/
軍隊から謎の失踪をした息子の行方を、自ら探すうち、苛酷な真実を知ることになった元軍人の父親。「ミリオンダラー・ベイビー」「クラッシュ」のポール・ハギス監督が描く、理不尽な渦にのみ込まれ、悲惨な結果を出してしまった善き人々の物語。

9・11、イラク派兵以降のアメリカの精神的荒廃。ディプレッシヴな謎解きが暗い緑色の画調で描かれる。イラク戦争によって人間性への信頼は、救いがたく蝕まれてしまったようだ。
しかしアメリカの閉塞感は、90年代以降の日本がすでに体験し終えたものでもある(95年を象徴として)。未来の展望を失った日本は、社会の自明性を喪失し、個々の実存はその痛みを受け止めた。他方、グローバル化の中心にいたアメリカは、それがもたらす内閉化への自覚を持たず、わかりやすい物語を求めて自滅したといえる(ネオコン*1
軍人のPTSDという深刻な問題は、アメリカ社会において進行する危機の根深さを突きつける(国旗は逆さまに掲揚される)。経済も破綻し、アメリカの危機の自覚は、これからさらに深まっていくのではないか(『ダークナイト』のヒットはすでにあらわれた証左だろう)。逆に日本では、<内閉に宿る希望>を『トウキョウソナタ』が提示する段階に達している*2。それももちろん相当ディプレッシヴだが。

*1:すでにベトナム戦争で危機を招いていたはずなのに。

*2:90年代以降の痛みを描いた作品としては、例えば『リリィ・シュシュのすべて』が思い出される。『トウキョウソナタ』と同じように、たしかドビュッシーが出てきたと思うのだが、その印象はまるで対照的である。