キム・ギドク『ブレス』(2007)

BREATH (韓国 84分)出演 チャン・チェン/チア/ハ・ジョンウ/カン・イニョン/キム・ギドク http://www.cinemart.co.jp/breath/
執行猶予まで残された時間はあとわずか。それにもかかわらず自殺を企て失敗する死刑囚チャン・ジン(チャン・チェン)の元に、見知らぬ女が訪ねてくる。/女は、夫の浮気発覚により深い孤独の闇に落ちた平凡な主婦ヨン(チア)。余命わずかの彼に彼女がプレゼントしたのは、原色に満ちたまぶしい四季の風景と歌だった。(早稲田松竹HP)

愛情は排他的な二者関係を生み出すが、この排他性は、外部に対する暴力へとしばしば転化する。他方、愛は、二者関係の内部にも暴力を発生させる。愛はその極限において、愛する他者との一体化をめざすが、これは他者の他者性を解体させる力として働くからである(死刑囚とキスする主婦は、死刑囚の呼吸を奪うほどに一体化しようとする)。裏返して言うなら、究極の愛とは、自らを他者の暴力に委ねる欲望、とも表現しうるものだ。
死刑囚と主婦(二者関係の内部)。死刑囚を愛するホモ囚人と主婦の夫(二者関係の外部)。他者の暴力に身を委ねる欲望が「愛」であるならば、嫉妬という感情によって苛まれるホモ囚人と主婦の夫も、究極の愛の境地に達しているといえる。内部と外部は交錯し、愛と暴力の作用も交錯する。刑務所という絶対化された空間の設定、季節の移り変わりの描写など、「春夏秋冬そして春」ときわめて似ているが、「内部と外部」の関係性というテーマが加わって、より重層的な世界が描写されている。
抽象的な表現は相変わらず魅力的だが、「愛」への過剰な思い入れは、正直ちょっと飽きてきたかも、というのが感想。SMプレイで相手の男性を殺してしまった人みたいな、業の深い人には最適な作品だが、「愛って、極端になると、そういう面も出てくるよね」という程度の学習にとどめておくのが、一般人にとっては適切かもしれない。つうか、「究極の愛」って何だよ(意味分からん)、というのが私自身の感性。「性欲*1+人類愛≒恋愛」「人類愛≒昆虫や動物も含めた生命に対する愛、場合によっては宇宙人を愛しても良い」というのが私の恋愛観なのだが、これはこれでマズイか。えへ(*^_^*)

*1:ちなみに、獣性の発露たる性欲において、高貴で絶対的な愛が宿りうるというのが、キム・ギドク『弓』の主題であった。