根岸吉太郎 『探偵物語』(1983)

主演:薬師丸ひろ子秋川リサ岸田今日子、北詰友樹、坂上味和、ストロング金剛三谷昇、山西道広、財津一郎
赤川次郎原作。渡米前の金持ち一人娘・直美と、彼女を尾行する探偵・ 辻山。探偵の元妻の不倫が殺人事件に発展し、直美自身が探偵のまねごとをはじめるが…。田園調布〜東急線〜渋谷〜立教大学の風景にも注目。

薬師丸ひろ子松田優作の部屋を訪ねるシーンで「わたし、辻山さんが思うほど子供じゃないんです」「子供だよ!」という見応えのある会話劇が展開されるのだが、松田優作のセリフはまったくその通りであって、薬師丸はどう見ても女子中学生が大学生のふりをしているようにしか見えない。80年代初頭の薬師丸ひろ子は、性的なタブーを課されたモラトリアムな身体を演じて、本当に信じがたい素晴らしさである。
普通に言ったら「ロリコン趣味」の一言に回収されてしまう危険があるのだが、現代の「ロリコン趣味」が「草食男子の二次元肉食化(=萌え)」を意味するのだとしたら、80年代の薬師丸ひろ子の魅力は、この言葉では説明を尽くせないだろう。80年代前半には確かに「モラトリアム」という言葉で説明されるような特有の輝きが存在したように思われる。
モラトリアムの語義にも関わるが、性的規範の緩み、少年少女の「消費主体化」の浸透によって、主体化に伴うアイデンティティの葛藤が以前とは別のものになってしまったのかもしれない、などと思った。いずれにせよ、ラブホテルに潜入する薬師丸ひろ子松田優作の抑制された所作など、グッとくる映画だった。