桐野夏生残虐記』(新潮文庫)。精神衛生のために読んでみたのに、逆に気分がおかしくなった。少女が一年間監禁される話。

…私は夜の夢を紡ぐことによって、勘の鋭さを身に付けつつあった。嘘ではない。小説家になってから、私の直感は一度として外れたことがないのだ。想像とは、現実の中にある芯を探り当てた瞬間から始まる。現実という土壌なくして、想像がそれのみで芽吹くことはあり得ない。(178)

監禁から解放されてから、本当の恐怖が始まる。「少女の内部にある現実」を少女は受け止めることができない。周囲の好奇の視線は「少女の内部の現実」へと無遠慮に注がれるが、その視線が少女に集中することで、少女は「自分自身の外側の現実」も失うことになる*1。「現実」は決定的に失われ、「想像」(夜の夢)だけが辛うじて、「現実」への通路として残される。
「解説」で斎藤環が二つの謎を示しているが、大胆な構成にもかかわらず、なんとも異様に謎めいた印象が残る。こわいよう。

残虐記 (新潮文庫)

残虐記 (新潮文庫)

*1:相手の瞳の中には自分の姿が映っている。ヤタベさんが配置される構図が絶妙。