普遍世界の成立oikumene

マケドニア帝国の成立後、ポリスの公民意識が摩滅し)それに代わって出て来たのが世界の公民Kosmopolitesという新しい意識である。53
こういうポリスの喪失を最も生々しく示した一連の哲学者がキュニコスKynikos学派(である。)54
ポリス喪失時代のEpikurosにとって、過去のギリシア人の、例えばPlatonの説くイデアのような本質ないし真実在はもはや信じられない。人間にとってただ一つ真実であり直接的であるのは、人間の感覚である。56
Epikurosの説いたのが万物は原子から成るという唯物論であったのに対し(=死の恐怖からの解放)、Zenon(=ストア学派)が説いたのは汎神論Pantheismである。57
(Zenonによれば)宇宙、世界が理性によって貫かれ支配されているとすれば、小宇宙としての人間はこの理性にあずかっており、この理性を自らのうちに分けもっている。だからこの自然の理性に従うことが、人間の美徳であり正しい生き方である。すなわち、……自然が、人間にとって規範nomosとなる……(=「理性のストイシズム」)58
(Epikurosと異なり、)ストアは、ロゴスによって与えられた自然の社会が存在すると主張した……(つまり、世界の公民=コスモポリテースによる観念的共同体のなかに、自然法が存在することを主張した。)59
ストア学派はこの意味で自然法思想の源流としての意味をもっているが、)結局それは賢人の観念として存立するものにすぎな(かった。)60