『たそがれの維納』

1934年、ウィリー・フォルスト監督。双葉十三郎さんの寸評を引用。

……指揮者の妻が福引で当てたチンチラのマフが狂言まわしとなって話は進む。人気画家が描いた仮面のヌードのモデルは兄の妻。絵がきっかけで若い娘が人間関係に加わって――。チンチラのマフと仮面をうまく使った洒落っ気あふれる展開で、照明効果を生かした陰影のある画調が情感を生み、カルーソーの歌も気分を盛り上げ、ぼくたちはウィーン情緒に陶酔させられた。(166)

よくは分からないが、大胆なカメラワークというか、意外な引きや意外な寄せが「効果的」に使われている。「効果的」に使われていることが、よく伝わってくるというか。ウィーンの上流階級の色恋話で、オペレッタみたいな感じもなきしもあらずなのだが、所々にリアリズムをうかがわせるカットも見られ、そこら辺の緩急のつけ方が、ほとんどあざといまでに計算されている。ウィーン情緒は、たしかに伝わってくる。突然、サスペンスになって、そこからの展開は息もつかせない。ただ、なんとなく色んなものがごちゃまぜになっている映画だなぁと感じた。