『書物の運命』

池内恵。以前より注目していた人だが、この本を読んで、めったにない才能の持ち主であることを確信した。精神的な健全さが感じられるのが何より良いし、語られる世界観にたしかな知性の裏づけが備わっているように感じられる。「岡倉天心茶の味』と東洋のかたち」を読むと明らかだが、著者の関心には、近代日本を世界の趨勢のなかに位置づけつつ、現代的課題を炙り出すというテーマがある。中東研究も、欧米と近代日本という枠組みを考えるうえでの周到に選択された問題領域であることがわかる。著者の幼少期からの本との関わりは圧巻というほかない。サイードに対する批判、歴史研究における分析視点の問題なども、非常に啓発的だった。おすすめ。

書物の運命

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