大島渚『帰って来たヨッパライ』(1968)

帰って来たヨッパライ(80分・35mm・カラー)
フォーク・クルセダーズのヒット曲を題名にし、不条理に巻き込まれる3人の学生を彼ら自身に演じさせた大島渚の異色作。日本人と韓国人との自己同一性のあやふやさが繰り返し問われ、物語が一度元に戻ってしまう大胆な構造にも驚かされる。クルセダーズが次のシングル曲に予定していたが発売中止となった「イムジン河」も3人によって歌われている。
’68(創造社)(監)(脚)大島渚(脚)田村孟佐々木守足立正生(撮)吉岡康弘(美)戸田重昌(音)林光(出)加藤和彦北山修、端田宜彦(はしだのりひこ)、佐藤慶緑魔子渡辺文雄小松方正殿山泰司足立正生、車大善、上野堯

すごくトリッキーな脚本だった。夢が現かはっきりとはわからないナンセンスな構造のなかで、国家意識やアイデンティティーの同一性が、反転したり、捻じ曲がったりしていく。ピストルを突きつけられること、逆にそれを突きつけ返すこと、そこでの権力の絶対的な非対称性がナンセンスな反転可能性のもとにあること。フォーク・クルセダーズのメンバーの受身がちな演技が、この左翼的メッセージにそれなりの実質的イメージを与えている。
左翼の教条主義的政治性は貧困だよなぁ〜、とつねづね思っていても、映画のワンショットがその教条性を超えることがある。逆に、そうした意味の充溢がなければ、世界革命や階級闘争などに、若者があれだけ心を捉えられるはずもなかっただろう。国家に背を向けたくなる本能は、たとえば『愛のコリーダー』の一場面にも、ずいぶんと喚起されたものだ。