黒木和雄『TOMORROW 明日』(1988)
(105分・35mm・カラー)原爆投下までの最後の一日を送っている長崎爆心地付近の庶民を描いた黒木後期の代表作。結婚式、出産、召集令状の到着といった人それぞれの出来事を描くにあたり、黒木らは井上光晴の原作にあった時間の流れを解体し、スケッチ風の演出を時系列的に重ね合わせた。その形式について黒木は「純粋なフォルムをいかに貫徹させるか」とのちに記している。
’88(ライトヴィジョン=沢井プロ=創映新社)(原)井上光晴(脚)黒木和雄、井上正子、竹内銃一郎(撮)鈴木達夫(美)内藤昭(音)松村禎三(出)桃井かおり、南果歩、仙道敦子、黒田アーサー、佐野史郎、岡野進一郎、長門裕之、殿山泰司、草野大悟、絵沢萠子、水島かおり、森永ひとみ、伊佐山ひろ子、なべおさみ、入江若葉、横山道代、荒木道子、賀原夏子、楠トシエ、三木てるみ、馬渕晴子、原田芳雄、田中邦衛
実に美しい傑作だと思う。とくに佐野史郎と南果歩の結婚式が終わってから、夜を迎えてからの人々の佇まいが、折り目正しく、細やかな心遣いに満ちていて、切なくも美しく感じられる。鈴木達夫の写実的でありながら情感あふれる映像に酔いたい。心を込めて作られた料理をおいしく食べるシーンが、『紙屋悦子の青春』と共通して、さりげなくも尊い印象を残す。中高生なんかが観たら良いと思う。おすすめ。