衣笠貞之助『川のある下町の話』(1955)

(108分・16mm・白黒)下町の大学付属病院でインターンを務める青年が薄幸の娘と出会い愛情を深めていく。川端康成の原作を映画化したメロドラマで、衣笠にとって久々の現代劇となったが、本作でも風景や人物を捉えたキャメラの映像美が発揮されている。
'55(大映東京)(監)(脚)衣笠貞之助(原)川端康成(撮)渡邊公夫(美)柴田篤二(音)齋藤一郎(出)根上淳有馬稲子山本富士子、見明凡太朗、長谷部健、川上康子、品川隆二、細川ちか子、丸山修、多々良純、河原侃二、町田博子、姫路リエ子、木匠マユリ

バラックに住んでいる有馬稲子インターンの医学青年が、山本富士子との三角関係(四角関係)などがありながらも、お互いに魅かれあっていく。ところが自分の身の程を案じて、有馬稲子は青年の下宿を去る。【ここまでがメロドラマ】
その後、米兵が絡んだショッキングな事件に、有馬は巻き込まれる。【いきなりの「反米映画」化(独立後の思潮の影響か?)】
この事件をきっかけに有馬稲子は気がふれ、「先生、先生」とつぶやくだけの人事不省に陥る。「いいお天気ねえ」とベッドでつぶやく中年女性患者も登場。【『狂った一頁』のドイツ表現主義
ラスト、赤痢の救護活動を通じて、貧しい人間に気持ちが分かるようになったインターン青年は、電気ショックで正気を取り戻した有馬と再び愛を誓い合う。【やっとメロドラマへと回帰】
というように、めちゃくちゃな不統一感だが、これはこれで興味深い。有馬稲子のかわいらしさも一見の価値がある。川辺のゴミゴミした雰囲気が良く、ロケ地の魅力も十分に味わえる。