キューバ革命の番組に飽きてチャンネルを変えたらウツ病の人が映っていた。自分もときどき急激な不安感に襲われることがあるが、自分は別にしても、現代日本アノミー状況については真剣に考える必要がある。形式合理性を追求する「組織」の原理だけではなく、自足的価値を備えた「制度」をいかに構想するかが、いま根本的に問われるべき問題だ。その作業はおそらく、個人の自律性という概念について再考することを含むだろう。
近代主義者は日本の共同体的思考様式を批判してきたが、個人の自律性という観念は欧米の宗教的伝統に深く根ざしており、これを金科玉条とすることはできない。功利主義的価値観が浸透し、個人化が支配的になりつつある現在こそ、キリスト教的伝統に根ざさない個人のあり方(の可能性)について、功罪両面での検討が必要となる。そのうえで得られた知見をいかに制度の構想へとつなげていくかを考えるには、マキノ映画で見られるような情緒的一体性を、新たにどのように評価しなおすかという問題意識が不可欠のものとなるだろう。人間は、他者からの心理的支えなしに、一人きりでは生きられない。
最近読んで面白かった本を。中野京子『怖い絵』『怖い絵2』(朝日出版社)、『ハプスブルク家12の物語』(光文社新書)、いずれも文章力が抜群でとても面白い。ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」、ホルバイン「ヘンリー8世像」、レーピン「イワン雷帝とその息子」、ミランダ「カルロス2世」、ベックリン「死の島」、ボッティチェリ「ホロフェルネスの遺体発見」、ドラローシュ「レディ・ジェーン・グレイの処刑」、ブリューゲルベツレヘムの嬰児虐殺」、などが凄まじい。